洗礼者聖ヨハネの斬首 (カラヴァッジョ)
イタリア語: Decollazione di San Giovanni Battista 英語: The Beheading of St John the Baptist | |
作者 | カラヴァッジョ |
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製作年 | 1608年 |
種類 | カンヴァスに油彩 |
寸法 | 370 cm × 520 cm (150 in × 200 in) |
所蔵 | 聖ヨハネ大聖堂、バレッタ |
『洗礼者聖ヨハネの斬首』(せんれいしゃせいヨハネのざんしゅ、伊:Decollazione di San Giovanni Battista)は、イタリアのバロック期の巨匠、カラヴァッジョによる油彩画で、洗礼者聖ヨハネの処刑を描いている。マルタのバレッタにある聖ヨハネ大聖堂(サン・ジョヴァンニ大聖堂) の礼拝堂に所蔵されている。
アンドレア・ポメラ著、『カラヴァッジョ:画像を通した芸術家』(2005)によると、本作はカラヴァッジョの傑作であると同時に「西洋絵画で最も重要な作品の一つ」として広く見なされているものである[1]。ジョナサン・ジョーンズは、「死と人間の残酷さがこの傑作によって剥き出しになっており、作品の大きさと影は心を怖気づかせ、虜にしてしまう」と述べ、『洗礼者聖ヨハネの斬首』を史上最高の10点の芸術作品の一つと見なしている[2]。
構図
[編集]カンヴァスに油彩で描かれた絵画は、縦3.7メートル、横5.2メートルである[3]。目を引くのは、キアロスクーロを使用した、バロック時代に共通の鮮やかな赤と暖かい黄色である[4]。画面は、召使いの少女がヨハネの首を受け取ろうと金色の大皿を持って立っている側で、洗礼者聖ヨハネが処刑されるところを描いている。刑務官が指示を出し、死刑執行人が斬首を行うために短剣を引く間、ヘロデヤとして認識されている女性、ないし死刑執行が間違っていることに気付いた単なる傍観者の別の女性[5][6] はショックで立ちすくんでいる。一般的なイタリアの芸術家やカラヴァッジョ自身に好まれた本場面は、聖書から直接影響を受けているのではなく、黄金伝説に関連する物語に触発されている[7]。
本作は、カラヴァッジョの作品中、署名を有している唯一の作品で、署名はヨハネの喉から流れる赤い血の中に描かれている[8]。画面には何も描かれていない広い空間があるが、カンヴァスがかなり大きいため、人物像はほぼ等身大である[9]。
カラヴァッジョは、マルタ騎士団の刑務所で過ごした自身の記憶から作品の背景を描いた[10]。画家の後期の絵画の特徴として、小道具の数と使用される小道具の細部表現は最小限のものとなっている[11]。
歴史
[編集]本作はマルタ騎士団から祭壇画として依頼され、1608年にマルタで仕上げられた[1][12]。カラヴァッジョがこれまでに描いた祭壇画中、最大のものであり[13]、現在もなお聖ヨハネ大聖堂に掛けられている。作品はマルタ騎士団の大聖堂のために注文されたが、カラヴァッジョ自身がこの教団に入会し、一時騎士として奉仕した[8][13]。しかしカラヴァッジョの教団への奉仕は短期間で、問題を引き起こした。カラヴァッジョは記録されていない犯罪で投獄されている期間中に脱獄して、罪を償わない逃亡者となってしまった[6]。入団から約6か月後に教団によって「穢れ、腐敗した団員」として疎外されたカラヴァッジョの不在中に、本作の前の礼拝堂で式典が行われた[6][14]。
カラヴァッジョは、ここに描かれている出来事の後の瞬間を描いた何点かの作品を制作した。そのうちの一点は、ロンドンのナショナル・ギャラリーに収蔵されており、別の一点は、マドリードの王宮に所蔵されている。二点のうちの一点は、カラヴァッジョを追放した騎士団の団長 (グランドマスター) であるアロフ・ド・ウィニャクールを宥めるためにカラヴァッジョが送ったと言われている作品であるのかもしれないが、確実にはわかっていない[15]。
『洗礼者聖ヨハネの斬首』はひどく損傷したが[16] 、1955年から56年にローマで開催された注目すべき展覧会に先立って、1950年代に修復され、大きな注目を集めた[17]。ヨハネの血の中にカラヴァッジョの署名が現代の鑑賞者に見えるようになったのは、修復中のことであった[18]。署名はいくらかの論争となっている事柄である。作品は「f. Michelang.o」(教団内での画家の兄弟愛を示す「f」) [19] と署名されているが、カラヴァッジョは何らかの犯罪を告白して、「私、カラヴァッジョ、これをした」と署名したと一般に主張されている。画家がローマから逃げ出した原因となった、カラヴァッジョの手によるラヌッチオ・トマッソーニの死に多分関連しているのであろう[20][21][22]。
脚注
[編集]- ^ a b Pomella, Andrea (2005). Caravaggio: an artist through images. ATS Italia Editrice. p. 106. ISBN 978-88-88536-62-0 28 June 2010閲覧。
- ^ Jones (21 March 2014). “The 10 greatest works of art ever”. The Guardian. 2021年8月7日閲覧。
- ^ Partel, Francis J. (2011). The Chess Players, a Novel of the Cold War at Sea. Navy Log LLC. p. 287. ISBN 9780615414515
- ^ Sammut, E. (1949). “Caravaggio in Malta”. Scientia 15 (2): 88 .
- ^ Harris, Ann Sutherland (2005). Seventeenth-century art & architecture. Laurence King Publishing. p. 48. ISBN 978-1-85669-415-5
- ^ a b c Gaul, Simon (1 October 2007). Malta Gozo & Comino, 4th. New Holland Publishers. p. 109. ISBN 978-1-86011-365-9
- ^ Hibbard, Howard (1983). The Caravaggio: Reflections on Political Change and the Clinton Administration. Harper & Row. p. 228. ISBN 978-0-06-430128-2
- ^ a b Rowland, Ingrid Drake (2005). From heaven to Arcadia: the sacred and the profane in the Renaissance. New York Review of Books. p. 163. ISBN 978-1-59017-123-3
- ^ Hibbard (1985), 232.
- ^ Varriano, John L. (2006). Caravaggio: the art of realism. Penn State Press. p. 116. ISBN 978-0-271-02717-3
- ^ Varriano (2006), 125.
- ^ Varriano (2006), pp. 74, 116.
- ^ a b Patrick, James (2007). Renaissance and Reformation. Marshall Cavendish. p. 194. ISBN 978-0-7614-7651-1
- ^ Warwick, Genevieve (2006). Caravaggio: Realism, Rebellion, Reception. University of Delaware Press. p. 30. ISBN 978-0-87413-936-5
- ^ Hibbard (1985), 249.
- ^ Hagen, Rose-Marie; Rainer Hagen (2 February 2002). What great paintings say. Taschen. p. 216. ISBN 978-3-8228-2100-8
- ^ Hibbard (1985), p. 230.
- ^ Hammill, Graham L. (15 December 2002). Sexuality and Form: Caravaggio, Marlowe, and Bacon. University of Chicago Press. p. 95. ISBN 978-0-226-31519-5
- ^ Warwick (2006), p. 15.
- ^ Pencak, William (October 2002). The films of Derek Jarman. McFarland. p. 70. ISBN 978-0-7864-1430-7
- ^ Peachment, Christopher (6 May 2003). Caravaggio. Macmillan. p. 168. ISBN 978-0-312-31448-4
- ^ Jackson, Earl (1995). Strategies of deviance: studies in gay male representation. Indiana University Press. p. 81. ISBN 978-0-253-33115-1